奥州乱るで心も乱る「津軽為信 プレイリポート」(その2)




     南部家の衰退(1601年9月〜


今年の秋は散々だった。
大浦城へと運び込まれる年貢米を見て沼田祐光はそう嘆息した。
収穫の季節が近付く夏の終わりに長雨が続き、
津軽一帯の稲作は誰が見てもダメージが大きく、
その損害は年貢米、ひいては対南部家の兵糧米に深刻な不足を引き起こした。

   一言でいえば「凶作」をもろに喰らったのだ!

プレイヤーの運の無さも手伝って津軽家の内情は火の車であった。
軍資金にしろ兵糧にしろ決して余裕があるとは言えない。
季節毎に兵器である攻城櫓を生産している工房に多くの軍資金が流れ込む。
おかげで対南部戦線にまともな軍事施設を建築する金もなかった。

 「殿、このままでは南部との戦いが長引けば我らに不利でございます。」
 「わかっておる。」

祐光の言う通り長引けば長引くほど津軽家は窮地に追い込まれる。
群雄覇権モード「奥州、乱る」は上杉、伊達、最上の本城がそれぞれ2、
南部家には本城1に支城1が割り当てられている。
津軽家には本城1つが割り当てられているだけであり、
時間が経つにつれて周囲の群雄より国力の差が広がっていくのは当然だ。

最上との同盟に成功した津軽家に後顧の憂いはなく、
全兵力を持って南部、三戸城へと攻め込む形は出来ているのだが、
兵糧が心許ないのでは本末転倒である。

 「来月には予定しておる最後の攻城櫓が完成する。」
 「は、次の一戦に我が身を賭ける所存、いかなる命でも受けまする。」

津軽為信とその軍師、沼田祐光、
主従ともに次の一戦が大きな意味を持つ事を理解していた。

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 「殿、物見より火急の知らせですっ!」

その日、三戸城へと駆け込んだ早馬は南部家に緊張を持ち込んだ。
これまで幾度と無く国境侵犯を繰り返した津軽家の工作隊だが、
今回は明らかに事情が異なるのである。

 「津軽軍1万と5千が我が領内北に侵入!
  津軽軍は尚も南下中にございます。
  数日中には三戸城へと到達すると思われます。」

津軽が最上と結んだ事を念頭に置くと、この侵攻は勝負を賭けた一戦に違いない。
南部諸将もそのことは十分にわかっていた。
南部家臣九戸実親が津軽と内通しており謀叛を企てた一件も
この戦いの布石でしか無かったのである。

 「信直、一体何事じゃ?」

騒ぎを聞きつけ隠居していた南部晴政も三戸城内に姿を現した。

 「これは大殿、津軽為信の軍勢がこちらに迫っております。」
 「ならばワシも出よう、南部騎馬隊の力を見せてやるのじゃ!」

南部家の者にとって津軽為信は不義不忠の仇敵である。
絶対に負けられない戦いに隠居したはずの晴政も加わるというのだ。
これには南部家諸将が沸き立つのだった。

 「大殿が御出陣下されば我らの勝利は間違いありませぬ。」
 「あの裏切り者を叩き潰す好機にございます。」
 「我らも出陣の支度を整えまする。」

両軍の激突は最早避けられないのである。
南部軍もまた津軽軍とほぼ同数1万5千の騎馬、足軽の混合部隊で出陣。
下北半島の付け根付近での激戦が予想された。
南部軍にとって津軽との野戦は圧倒的な自信があった。
巻き上げる騎馬の土煙が雄々しくそれを物語っていた。
がしかし、

 「殿、先鋒の部隊が津軽軍と遭遇、交戦しました。」
 「うむ、それで首尾は如何様じゃ?」
 「は、それが……。」

津軽軍の陣容は異様なモノであった。
大きく背を伸ばす攻城櫓を押し並べ、
襲い掛かってくる騎馬兵には徹底的な弓矢の攻撃が加えられた。
南部騎馬兵の槍は天高くそびえる攻城櫓に届く事無く、
だからと言って櫓を壊すにも使い勝手が悪い。

 「騎馬兵を下げろ、足軽を前に出しあのデカ物を叩き壊すのじゃ!」

いつもの戦いと勝手が違う。
南部軍の兵達も必死で応戦するのだが容赦なく降り注ぐ矢に次々と倒れ逝く。
戦闘を優位に進める津軽軍でも心配事は尽きない、

 「祐光、兵糧の残りはどうじゃ?」
 「は、いまのところ滞りなく、」

凶作に喘ぐ民から受け取った大事な兵糧、
少しでも早く戦闘を終わらせたい津軽軍ではあったが、

 「もう一戦、耐えられるか?」
 「いま何と仰いましたか、」

残る兵糧でもう一戦えるかと聞かれている事に祐光は耳を疑ったが、
すぐに為信の真意に気付かされた。
南部軍の支城、九戸城より援軍が出陣したのである。
南部にはまだ戦う力が残されていたのだ。

 「非常に苦しいとしか言い様がございませぬ。」
 「まこと正直な奴じゃ。」

為信は自らが信じる軍師の言葉を噛み締めた。
これ以上の戦いは続けられない。
そう判断したのなら戦場に長居は無用である。

 「全軍、大浦城へ退却じゃーっ!」

この戦いで南部騎馬隊の主力は削がれ多くの傷ついた兵が津軽軍に投降した。
攻城櫓部隊はひとつとして櫓を失う事無く退却に成功。
また攻城櫓の部隊とは別に後方についていた工作部隊が東陸奥の南部領内に砦を建設。
この一戦を無駄にすることなく津軽軍は次への一手を打ったのである。

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翌年、作物は順調に生育し秋には多くの年貢米を手に入れた津軽軍は、
再び東陸奥へと侵攻、その数は昨年より多く1万7千余、
対する南部家は昨年の戦いの損害を回復する事も出来ず三戸城には4千の守備兵が残るのみ、
支城である九戸城からの援軍も約5千と津軽軍に遠く及ばない兵力を戦場に投入した。
これには理由があった。

最上と同盟を組んだ津軽家に対し、南部家も伊達家と手を結でいた。
最上は後顧の憂いがなく、南の上杉勢、東の南部勢と戦える状況にある。
最上家は津軽家との戦いで疲弊している南部領内へと侵攻を開始したのである。

これは伊達家にも大きな牽制となった。
北日本を東西に伸びる奥羽山脈を中心に最上軍と南部・伊達連合軍は衝突。
南部家は伊達家の援軍によって国境沿いの戦いを何とか生き抜いていたのである。
対する津軽軍はこの1年を富国強兵に費やしていた。
戦いの優劣は決定的となったのだった。

 「全軍、三戸城へ攻撃を集中せよ!」

前年同様、攻城櫓を前面へと押し出し迎撃に出た南部軍を矢の嵐で破った津軽軍は、
ようやく昨年からの目標である三戸城へと攻撃を開始、
伊達の援軍が高水寺城を出立したのは、その数日後であったが、
三戸城は津軽勢の攻撃に耐え切れず陥落したのであった。

ゲーム的に一番活躍したのは蠣崎慶広、
兵器適正は低いものの所持戦法が「斉射之三」なので、
対南部戦を戦った攻城櫓上でもっとも活躍できたのだ。
彼の「斉射之三」を連鎖させる事によって騎馬隊を蹴散した。

翌年夏、長きにわたり抗争を続けてきた津軽と南部の戦いに決着がついた。
南部家は陸中に残る九戸城へと立て篭もったが、
伊達の救援を得られぬまま津軽の攻城櫓から降り続ける矢に屈した。
こうして1603年6月、
南部信直、南部晴政らは津軽家に臣従し戦いは終わったのであった。


     義光の策謀(1603年9月〜


本州の最北端、陸奥ではこの年も天候不順による凶作を向かえていた。
いっその事「水田」をあきらめて全部「畑」にしてやろうかと思ったが、
一度建設した施設を壊すのは勿体無くて忍びない、貧乏性なわたしである。

さて、南部の滅亡によって奥州のパワーバランスは大きく変わった。
鉱山を持ち、ここまでの戦いで大きな損害を出していない最上家は、
豊富な軍資金と津軽との同盟を背景に伊達、上杉の隙を窺っている。

上杉は、南部家の救援を送り出した伊達家に目敏く牽制を仕掛け、
対する伊達は北を津軽、西を最上、南を上杉にと敵に囲まれた。
如何に天下に轟く「独眼竜」であっても三方を敵に回しては生き残れない。
偶然にも凶作が連続して襲い来る津軽家には兵糧の余裕は無く
北からの脅威はそれほどでもないのが救いであった。
結果的に奥羽南部では伊達と上杉の小競り合いが頻発していた。

 「殿、このようなところで何をしているのですか?」

津軽為信は三戸城から東陸奥の町並を見ていた。
津軽と同様ここもまた困窮に耐える町並が並んでいる。
三陸沖から吹き込む冷たい季節風は容赦なく農作物に打撃を与えていく。

 「祐光、津軽の民の平穏を願って戦ってきたが、
  まだまだ平穏な世には辿り着けぬままじゃ。」

そう言う為信に沼田祐光はこう返した。

 「されど、殿の仰せの通り市を大量に建設したところ、
  我が領内の経済状態は大きく好転しております。」

為信は頷いた。
これまで逼迫していた財政がウソのように軍資金が増えだしたのである。
いままで我慢して建てられなかった軍事施設をガンガン建設できる。
そういった意味では津軽家もそこそこの力を手に入れられたのだろう。

 「兵糧さえ潤沢にあれば、もう少しなんとか出来ると言うのに、」

為信は戦いが頻発している奥州南部に想いを巡らせていた。

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陸前の北半分を伊達、南半分を上杉が統治している。
両軍はここ何ヶ月の間に何度も戦いを繰り返していた。
国境をお互いに侵犯しあい、時には軍勢がぶつかり合う、
しかし、その両軍ともにここでの戦いは自軍を危機に導くことを知っていた。

 「御屋形様、ここは一度退くべきかと、」
 「……うむ。しかし背後を衝かれるのも痛い。」

上杉景勝、直江兼続主従も、

 「殿、ここは一旦退いて体勢整えるべきかと、」
 「ここで政宗に先に退けと申すかっ! 奴らも解っているだろうに!」

伊達政宗、片倉景綱主従も、
お互いが退いてくれればいつでも撤退する準備は出来ているのですが、
お互いに牽制しあってそれも上手く行きません。

 「ふふ、政宗も兼続もまだまだ若いな。」

それを黙って見ている最上義光、
伊達と上杉が潰しあいをしてくれれば最上が一番得をする。
そしてそれが始まった時、奥羽に最後の大きな戦いが始まるのだ。

   といったところで以下次回っ!

あと、ゲーム中の年表も次回まとめてお知らせします。