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   フェアリーズエメラルド 二次創作ショートストーリー Houbou様から戴きました!

     FEAA(フェアリーズ・エメラルド アナザー・アクシス)

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   FEAA 第九話 中心


− 午後4時05分 静かなる森 砦まで数キロ −

午後12時30分に進軍を開始した聖王国軍であったが、前方が動きを鈍らせたらしく、隊列の中ほど
では完全に足踏み状態となっていた。

 「またか、何度目だ!
  撤去、急げ!」

レックスは馬から降り、倒木の真新しい切り口を見て眉間にシワを寄せた。

 「ニール、出るときクリフの陣が片付いていた。
  何か知らないか?」

 「はて、何も『聞いて』おりませんが?」

レックスは葉を落とした枝々の隙間から覗く太陽を恨めしく見ると、

 「だいぶ傾いた。
  これでは、あの異人の思うツボじゃないか」

後方から突然悲鳴が上がった。
数名が、狂ったように唾を吐き、頭や首の辺りをほろい、中には兵装を脱ぎ出す者まで出た。
立ち止まっている所に頭上から水が滴ったので上を向いたら、顔に土を被った。

 「うわー、何か、何かが入った!」

足元に散らばる虫。
動きは鈍いが、かなりの数だ。

 「上だ〜」

なんて叫ぶから、次々に上を見ると、またしても黒い粉が降り、無残にも被害が拡大してしまった。

 「敵襲か?
  皆、備えろ!
  確認急げ、伝令!!」

 「レックス様、奇襲なら、ここも左右から狙われて然り、」

 「ニール、どういうことだ」

 「足止めの罠かと」

 「トーンか!」

 「御意」

 「トーン……」
 「異教徒が……許さない……」

レックスは抜刀して周囲の草を滅茶苦茶に薙ぎ出すと、いきなり前方に塊が落ちて潰れた。
それは緩慢に起き上がると、首と四肢が生え、生き物の形になった。

 「誰だ!!」

逆光で輪郭だけが浮かぶその姿は獣なのか?
恐ろしさ、異様さ、荒れるレックスから距離をとっていたこともあり、護衛は誰も反応できない。
ひと呼吸遅れて樹上から飛び降りてきた山の民兄弟がレックスの真横につけた。

 「ラグ、貴様まだ!」

 「セカル、安心しろ、ちょっと独り言をしに寄っただけだ。
  なんなら、俺の背中を狙っておけ。」

ラグはセカルに短剣を投げ渡すと、

 「……さて、いよいよご拝顔となってみりゃ、ダダっ子のお坊ちゃんとは」

 「貴様、私を愚弄する気か!」

切っ先を向けいきり立つも、ラグは平然としている。

 「ラルグ・エンドルは、何故コーラレイ王国を攻めなかった?」

 「なに?」

予期せず出たラルグの名に一瞬気勢をそがれた。

 「ふ、まぁいい、独り言だったな」

 「俺も一緒に見たのさ、今朝のことだ。
  ルエル様は、日没までお宅等を止めるよう、あの異人に命じたが、」

 「ひとりで半日も、出来っこねぇわな、フツー。
  ルエル様は独りじゃないって知ってたんじゃねぇか?
  じき、陽も落ちるしな」

 「言いたいことは、それだけか!」

 「ああ、独り言なんて、こんなもんだ」

 「覚悟はいいな!!」

 「おっと、まだひと仕事残っているんでね」

ラグはセカルに合図を送ると、高く跳躍して枝を掴むや、あっという間に木々に吸い込まれていった。

 「何者だ」

残された兄弟にレックスが詰問した。

 「あれはラグ、『森の民』の末裔です」

 「森の民の末裔だと?
  くそっ、異教徒どもめ!!」

レックスは駆け出した。
薄暗い森の奥を睨む双眸。
指導者がたたえるべき賢明の光は、一杯に広がった瞳孔に押しのけれら、妖炎が燈っている。

すぐさま兄弟が続き、その後を理由も分からず追いかける兵達。
再び隊列の後方で騒ぎが起こり、ニールは立て直しの指示にやっきだ。

駆けて、駆けて、ひたすら進むと負傷兵の一団が道を塞いでいた。
血の滲む包帯、まっさらな者も多い。

 「猿芝居を」

馬を捨てた。
うずくまる者達の間を通るのは、ぬかるみを行くようで、抜ける頃には手甲の指先に汗溜りができた。
それでも休まず、どんどん進み、尚も行き、ずんずん進み、その先に……居た!

火を焚き、湯を沸かしている。
少女が毛布にくるまり、温かいものを入れたカップを持つ数名は談笑していた。
眼前には得物を構える素振りすら見せない、クリフ、オーディー、トーンが立っており、日没を迎え、
ルエルが要求した時間となったことを皆で喜んでいる。

 「クリフ、妙案じゃないか」

 「お褒めに与り光栄です、レックス様」

クリフは負傷兵の回収を命じた。

 「ふざけるな!
  クリフ、何故裏切った!!」

クリフは答えない。
問われるまで考えていなかった。
ただ、

 「異端の口から語られようとも、
  ルエル様の願いなら。
  では、ご不満ですか?」

嘘ではないが、すべてではない。
以前、クリフはオーディーにある質問をした。

 「親父が私に問うたことがある。
  理、義、忠、いずれに由(よ)りて剣を振るうかと。
  オーディー、お前ならどう答える?」

 「理の剣を振るう者は人斬りに堕ち、
  忠のみでは、見誤るやも。
  義とは人の道なれば、私は義と答えます」

弟の恩人であるトーン、それにセシリア等が同調したとなれば、この男は絶対動く。
クリフには確信があり、親分として部下を見捨てるわけにはいかない。
仮に罠だとして、たかだか半日敵にくれてやったところで、いつものように正面突破するだけだ。
罠なら尚更、彼等のそばにいてやらねば。

 「何故そう言いきれるんだ。
  その異人はデタラメを吹聴した。
  トーン、お前の望みどおり、陽は尽きた。
  何の徴(しるし)もないじゃないか」

確かにそうだ。
実際、日が暮れたいま、何が起きつつあり、これから何が起こるのか、ルエルは全く触れなかった。

 「何か言ってみろ!」

 「神霊の御心は某の与り知らぬ所に御座候わば、
  なんともはや」

 「言うに事欠き、とぼけるか。
  見下げ果てた奴」

 「クリフも良く聞け。
  ルエル様より賜ったエメラルドを持つのは私だぞ!!
  その私の邪魔をし、異教徒のたわごとに乗った不明を恥じろ!!」

そうだ、エメラルドは正統な所有者と共に、いまもここに在る。
ルエル様と聖王家は200年来、エメラルドでつながっているのだ。

 「ヴァール・ウォードを打ち滅ぼすのは、エメラルドを持つ私の役目のはずだ。
  それなのに何故、ルエル様は異人をお選びになったのだ?

  だって、そうだろう。
  ラルグ王はルエル様を見た、そしてエメラルドを賜った。
  特別だったからか?

  では、エメラルドを持っていても、父上は兄上は、凡夫だったというのか?
  つまり私も寵愛に値しない愚民で、だからルエル様は御姿をお見せにならない。

  これでは、エメラルドに特別なチカラなど無いということじゃないか。
  貴いだけの石ころだ!

  ルエル様はそんな無意味な物を下さったというのか?
  違う、違う。
  エメラルドを持っていなかったから、兄上は殺されたのだ。
  そのエメラルドがただの飾りなら、兄上は無駄死にじゃないか!

  私はこのエメラルド、ルエル様と共に戦って来た。
  エメラルドに集い、ルエル様を信じ、散っていった者達がいた。
  それを、

  異教徒がエメラルドをないがしろにし、死者の魂を冒涜した!」

丸い太陽の頂上、最後の紅点が西に尽きた。
無論、森の中では見えようも無かろうが、これから急速に暗くなり、レックスの吐き出す白い息すらも
見えなくなるだろう。沈黙が凝固し始めた空間のどこかで明かりが灯り、クリフに向かった。闇に呑ま
れそうなクリフに松明を渡したのはゴルダだった。

 「レックス様はつまり……。
  エメラルド即ちルエル様で、
  エメラルドを持つ者こそ、始祖妖精様の代弁者であると仰るのですね」

レックスが怒鬼さながらの形相で、まくし立てる理由は何か?
見守る者達の疑問は、クリフの洞察で氷解した。
トーンを信じて進軍を中止することは、レックスにとってはエメラルドを持つ者を否定することと同義
なのだ。だからトーンの話は到底受け入れられない。

 異教徒が止まれと言うなら進めばいい。

 だから、そうした。

 あの異人は異端ゆえにルエル様より遥かに遠く、

 エメラルドを持つ私は誰よりも近い。

 「さて、異人よ。この先どうするつもりだ?
  いみじくも、お前のウソは暴かれ、
  戯言に耳を貸さなかった私は正しかった」

意地の悪い笑みを浮かべて、刺剣をちらつかせるレックス。

 「恐れながら、ウソは申しておりませぬ」

 「往生際の悪い奴だな」

クリフに南の警戒と、後続の進路の確保を命じた。
周到にその様子を観察し、周囲の兵が薄くなったところでトーンに小声で何か話し出した。

 「このまま何も起きなければ、どうなるか分かるよね。
  お前は聖王国軍を撹乱した大罪人だ。でも、
  今去るなら、見逃してあげるよ」

クリフは、不穏なレックスを警戒してトーンを見たが、トーンは何事も無いと合図を送った。
横目で見ながら、無言のままトーンの周囲を回るレックス。

 こうしているうちに何かが起きたら、エメラルドはどうなる?

 トーンを罰した後に、その何かが起きたら私の立場はどうなる?

 杞憂だ。何も起きないに決まっている。

 しかし、兄の死を穢(けが)したトーンをなんとかしなければ気が済まない……。

 大法螺吹きを盛大に見送ってやろうじゃないか。

レックスはトーンを笑いものにすることで手を打つと決めたのだ。
トーンはレックスの意図を汲み、気が変わらないうちにと、一礼して馬に向かった。

 「トーンさん、私の旅はまだ途中ですよ」

マテクだった。
レックスの浮かべる嘲笑から透けて見える悪意を読み取っていた。

 「ラルターム家はお咎めなしでしょう。
  いまは仲間割れしている時ではありませんからね」

マテクはオーディーに馬は必ず家に届けると約束し、陣を離れることを告げた。
オーディーは冬の夜に無茶だと引きとめようとしたが、トーンがこれからどういう目に遭うのかを聞か
されると悔しそうな顔をした。

 「ジャムと蜂蜜の小瓶、ありがとうございました。
  それと、私の家族には必ず生きて還るからと伝えて下さい。
  旅の安全を祈ります。」

今日は散々な日だ。何かにつけて無力さを痛感させられる。今だって下手に騒いで藪蛇では多くの者が
迷惑する。オーディーは無言で持ち場に戻った。

トーンは馬をレックスの側に寄せ、掛け声を待っている。

 「さぁ、みんな!
  ルエル様を騙り我々を混乱に陥れた者が、悔恨のうちに陣を去るらしい」

レックスは皆が注目するのを確かめると、

 「宿敵ヴァール・ウォードの間者、トーン。
  寛大にも、私は君を赦すことにした。
  土産は持たせてやれないが、」

聴衆から笑いが起こるのを待ち、

 「ヴァールに宜しくと伝えてくれたまえ!」

一体誰の真似で、どこで覚えたのだか知れないが、悪趣味なことは確かだ。
それでも、迎合しておかないと心配な輩は多く、レックスの後方、つまりはレックスに盲従してやって
来た者達から笑い声と拍手が巻き起こった。

 「さぁ、行け」

レックスは馬の尻を思い切り引っ叩いた、つもりだったが右手が空を切った。
トーンはレックスが馬に何をするのかを知っていたのだ。
馬に痛い思いをさせたくなかったので、レックスがこちらに振り向く前に馬を出していた。

罵詈雑言を浴び、陣を離れる剣士と老僧。
トーンはセシリアと、彼女を囲む一団に顔を向け頭を下げた。
バリーが胸に右の親指を突き立てて「信じてるぜ」と言ってくれたので、一同は少し救われた気がした。


しばらく行くと焚き火が見え出した。

 「よぉ、3本差しの旦那」

ラグだった。

 「当たらせて貰ってもよいかの」

トーンとマテクは馬を降り火を囲んだ。

 「何も起きなかったな」

 「ちと、拍子抜けじゃな」

 「で、どうする」

 「若様をお助けせねば」

トーンは枝を数本集めると、ボルから貰った保存食を差して炙り出した。
甘味の強い芋をスライスして干したものだ。

 「旦那、気が利くね」

 「また煙で遊ばないで下さいよ」

3人でむしゃむしゃやっていると、南から一騎やって来た。

 「貴公等は聖王国軍か?」

トーンにはコーラレイ王国の兵装であることが直に分かった。

 「もしや、若様の無事の知らせでは」

 「何故知って……、ん?
  おお、もしやトーン殿!
  いかにも、先ほど知らせが入りました」

ラグがトーンの肩を叩いた。
かなり痛かったらしく、トーンもむきになって叩き返した。
悶絶しながらも嬉しい顔をする二人の男はかなり気味が悪いので、伝令はマテクに向いた。

 「砦は目と鼻の先。
  早く行って暖まって下さい。
  聖王国軍は、この先ですか?」

ラグが干芋を勧めたが、伝令はそれを断り行ってしまった。

  :
  :
  :

 「ったく、胸くそワリー」

セシリアに気を遣って、カロスだけに聞こえるようにカーヴィ。

 「でもよ、日没まではなんとかなった。
  お前も手にマメを作った甲斐があったさ」

 「ああ、確かにな。
  お前、正規兵じゃねぇんだろ」

トンズラしても逃亡罪には問われない。

 「あの大将、泥舟っぽくね」

 「オイラもそこが気になってならねぇ。隣国の王子の命なんて眼中になさそうだ。
  あのお方の大義と、オイラの新しい生き方は相容れないらしい」

 「ぐはっ」

むさい気配が背後に漂うと、カーヴィがもがき出した。

 「なーにコソコソやってんだ」

バリーの丸太腕で絞められている。

 「ぼさっとしてねぇで行くぞ」

カーヴィを解放し、南を指差した。
もうイヴはセシリアを馬に乗せている。

 「俺の勘がビンビン言ってんだよ。トーンは法螺吹きじゃねぇ。
  俺達がここに残ってたら、大将はバツが悪いってもんだ」

3人はオーディーをすまなそうに見ると歩き出したが、疾駆してきた騎馬兵がやや広いところで手綱を
引き急停止した。見慣れぬ軍装の男はコーラレイ王国の使者を名乗りレックスを探し始めた。

 「エンドル公はおいでか?」

呆然とするレックスにクリフが寄り、ここだと手を挙げた。

 ……やめろ!

血の気が引くのが分かった。
圧迫されているような感じで、耳が遠くなっていく。

 「エンドル公ですね」

何呼吸か遅れて力なく頷くレックス。

 「コーラレイ王国宰相ザルスより聖王国軍最高司令官エンドル公へご伝言。
  ビータ王子の生還ならびに砦のウォード軍を殲滅。
  撤収準備中。
  以上、
  確かにお伝え致しました。
  砦は目の前です」

レックスは使者に「ご苦労」と言うと、クリフの肩に手を置いたのは「後は頼む」という意味だろう。
もぬけの殻になったレックスに代わりクリフが応じた。

 「私は聖王家に仕えるラルターム家の当主、クリフ・ラルタームだ。
  ザルス閣下に、殿下の無事を祝福し貴軍の協力に感謝する、と伝えてくれ。
  それと、明正午までの駐留を許可する。
  今夜は休もう」

使者は虚脱したレックスを一瞥したが、クリフに「伝えます」と告げて去った。

 「前方の砦の確認に数騎、行け。
  負傷兵に暖を。
  残りは報告あるまで待機。」

指示を出すクリフの後方で、

 「あーあ、やっちまった。
  よし、行くぞ」

バリーが促したが、セシリアが馬から降りている。

 「一緒に居てあげましょう、バリーさん。
  そうだ、イヴ。
  熱いお茶をお出ししましょう」

 「そうですね、疲れたときは甘いお茶が一番ですから」

 「それなら、夕べの酒が、
  ぐはっ!!」

カーヴィがバリーに殴られた。

 「お前の飲み残しじゃ失礼どころの騒ぎじゃないぞ、それに、
  大将は未成年だろ」


立ちすくむレックスに「どうぞ火の側へ」、クリフが促した。
聞こえたはずだが、応答のないレックス。
クリフは側にいた兵に椅子と毛布を持ってくるよう命じた。

レックスは椅子にだらりと腰かけ、足元を見続けている。
クリフはレックスの肩から背に毛布を掛けると、無言のまま傍らに控えた。
オーディーと数名が灯りと聖王国旗を据え、レックスとクリフに一礼して離れて行った。

 「レックス様、これをどうぞ」

湯気の立つカップを差し出した幼い手。
はっとして顔をあげると、セシリア、イヴ、シャーリーだった。
イヴはセシリアをシャーリーのもとに連れて行き、お茶のことを話したのだ。
レックスがカップを受け取ると、3人は笑顔でお互いを見、控えめな歓声を漏らした。

セシリアの手を取り、あるいは背に手をあて去っていく3人を見送りつつ、レックスはお茶を含みむと、
ゆっくりと呑み込んだ。それから周囲を見回してみると、時折、兵の誰かと目が合ったが、誰もがそそ
くさと視線を逸らし、わざとらしく距離をとる。まぁ、当然かと、今度はクリフを見たが、まったくの
普段通りで、トーンを信じたことを誇るでもなく、レックスを責めているのでもない。

 「クリフ、君はトーンに何を観たんだ」

 「そうですね、内容はともかく、ウソでは無い、でしょうか」

 「ウソではない……か」

繰り返しただけで、何も考えられない。

 「私はトーンを嘘つきと決めつけ、君を痴れ者と罵った。
  信仰さえも自ら否定してしまったようだ」

ああ、そうだった。クリフは気休めを言う軽い男ではない。
レックスはすぐに話題を変えた。

 「友人として訊いてもいいかな」

 「喜んで」

 「私はどうすればいい」

非を認め、トーンの名誉を回復すれば取り繕うことは出来る。
レックスだって分かっているはずだから、背中を押して欲しいのだろう。
しかし、クリフはレックスの期待を裏切った。

 「不思議なことに、ジール・ラルタームの英雄譚に、
  エメラルドは登場しないんですよ」

 「エメラルドを賜ったのはラルグ・エンドルだからね。
  もう、エメラルドの話はよしてくれ」

 「ラルグの身を守ること7度」

 「はは、ご先祖様の自慢話をしたいのかい?
  『鉄壁』のジールがいなければ7回死んでいたんだね」

 「ジールがいなければ……??
  ジールが護ったのは……ラルグ……!!
  ジールはラルグを見ていた!!」

クリフはレックスの反応を確かめるとオーディーを呼び、レックスと自分の馬を用意するよう命じた。
オーディーは、それが何を意味するのかを直感し、大きく主に頷いた。


ラスオール城、『中心の間』。
レックスの脳裏に、狭い部屋が浮かび上がった。

中央にはエメラルドを乗せた台座が置かれ、玉座の背後にはラルグの、残る三方の壁にはジール、オル、
ベイの肖像が描かれている。台座の玉座側には鏡が取りつけられているので、座しても4人の顔を見る
ことができる。

幼少の頃は、英雄達がエメラルドを見つめ、守護しているのだと思っていた。
しかし、いま、部屋の意味が分かった。

どの肖像も正面を向いており、部屋のどこから見ても、常に見る者と目が合う。
彼等はエメラルドではなく、ラルグ、そして玉座の者を見ていたのだ。

 建国の中心にいた者達は、ラルグを見ていた。

 エメラルドを見ているのは、

 私とヴァールだ!


レックスは立ち上がり、丸めた毛布とカップを椅子の上に置くと馬に跨った。

 「クリフ、トーンを探しに行く」

 「お供致します。
  ノークルト公も到着したようなので、ここは任せましょう」




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