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   フェアリーズエメラルド 二次創作ショートストーリー Houbou様から戴きました!

     FEAA(フェアリーズ・エメラルド アナザー・アクシス)

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   FEAA 最終話 ルエルの輝石


− 聖王暦204年 12月03日 午前10時47分 ラスオール城 −

楼閣の一室。

部屋のすぐ外の廊下には男が退屈そうに椅子に座っている。時折、ドアに取り付けられた小さな金属板
を横にスライドさせては、しばらく目をきょろつかせ、板を元の位置に戻していた。
この金属の板は防錆されているのか、錆びらしきコブやくすみがなく、もしかしたら新しいものかもし
れない。部屋の中には暖炉があるので居住用に作られた部屋であろうにもかかわらず、装飾品といえる
ものは殆ど見当たらない。季節柄、火は入れられているが、この殺風景さでは弱々しく感じてならない
だろう。唯一の救いは、比較的大きな窓からは陽光が射し、大理石の床には陽だまりが出来ていた。

 − 監視を眠らせ        −
 − この窓を開けてウルを放せば −
 − 鋼のチカラが終わるわ    −
 − でも、もうひとつ      −

壁際に置かれたベッドに腰かけていた少年は立ち上がると、陽だまりに座り、小さな袋から緑色の結晶
を取り出して陽に透かした。こぼれる柔らかい光が心を和ませてくれた。

 「トーンは、異国の神でも、神様には変わらない。
  この御守りはきっと僕を護ってくれるって言ってた」


− 11月某日 −

 「よくお越し下さいました、ビータ殿下」

たった今、転移の魔法でラスオール城に戻ってきたヴァールだ。
ヴァールは兵に命じて、ビータの所持品を検めさせた。

王家の指輪、護身の短刀、小さな布袋と中に入っていた薄緑色の結晶。

 (ふん、ルエルのエメラルドを模した、ままごとか)

ヴァールは指輪が蓋付きでないことを確かめると、短刀を指し、

 「これは預からせて頂きます。
  指輪と、これはお返し致しましょう。
  私も、子供のオモチャを取り上げるような鬼ではありませんからな。」

腰を曲げてビータの顔をのぞき込んだ。
泣いているのかとの期待は外れたが、恐怖で硬直した様は征服欲を満たすには十分だったようだ。
ヴァールは勿体つけるように手を揉み出し、

 「さて、大事なお客人には、特別のお部屋をご用意致しました。
  歴代の聖王が月を愛でるのにご利用になったお部屋ですよ。
  きっと、お気に召されるでしょう」

少年はこの部屋に幽閉されたビータだった。


突然、窓が開き、カラスが1羽入ってきた。
左の翼には、白い羽毛が目立つ。

 「ウル?」
 「ウルじゃないか!!」

ウルはチョンチョンと前進してからバサバサと羽ばたき、ビータの肩にとまった。
鋭いツメでわっしと掴まれたら、幼子の皮膚などすぐに傷ついてしまうだろうに、ビータは大喜びだ。
ウルは加減しているのかもしれない。

そっと肩に手をもっていくと、ウルは再びチョンと床に降り今度はベッドの枠にとまり首を傾げ出した。
良く見ると、右足に紙が巻きついている。

 「ウル、それは?
  いい子だから、じっとしているんだよ」

慎重に紙をほどき、広げると自分宛の手紙だった。

 『トーン殿の石を燃やせと
  ルエル様からのお告げ
  ラート・ザルス』

 ラート!ラートが助けに来てくれた?

 トーン!

 ルエル様?!

ビータは暖炉に駆け寄った。

ちょっと待て、ビータ。
手紙の通りにしたら、石を失ってしまうぞ。
君はそれを通して暖炉の炎を見る、どの一瞬も同じでない揺らぐ光がお気に入りだったじゃないか。

ひとりでに窓が開き、カラスが届けてくれた手紙には無条件で信じることのできる力強い名が連なって
いた。この出来事は手紙を読んでしまえば終わりではない。だって次の行動が明示されているのだから、
また何かが起こるに違いない。

だから、ビータは迷わない。
結晶を暖炉へ投じると、薪の間を何度か転げて炎の根元に落ち着いた。
ビータが見守る中、暖炉の炎はみるみる明るさを増し、光球が生まれ、一気に弾けた!

暖炉のある壁が虹色に縁取られ、虹の境界の内側、眼前のすべてが飴のように溶け落ちると、まったく
別の景色が広がった。どこかの部屋、見覚えのある品々、親しんだ芳香が流れてくる。
そして、玉座には焦がれた姿が。
その者は虚ろでうなだれていたが、視野の隅に入った小さな人影に気付くと、ゆっくりとこちらを向き、
とうとうビータと目があった。

 「なんということだ……」

憔悴しきった表情に、みるみる生気が戻ると、立ちあがり両手を広げた。

 「父上!」

 「ビータ、おお、ビータなのか!!」

ビータは駆け出し、大きな胸に飛び込んだ。

 「ウルが!
  ラートが!
  トーンが!
  ルエル様が助けてくれたんだ!!」

虹色のゲートはいつの間にか消え去り、また元の壁に戻っていた。


− ローブルス城 屋上 灯火台 −

 「頼むぞ、何をしている」

焦れる数名の兵は、西を見ている。
彼等の背後では、理由を知っているのか、大きく誇らしげな炎が燃え盛っている。
間もなく、遠くに明かりが灯り、砦から砦へと、東から西へと伝わり始めた。
ビータ救出を知らせる、炎のリレーだ。
砦のコーラレイ兵は密かに歓喜し、何も知らずに駐留するウォード軍の命運は、昼食か夕食頃に尽きる
のだろう。


はるか昔、人々の行く末を憂えた存在が、己の無力を嘆き知れずこぼしたひと滴。
アムクンがグーラント山頂で手にした輝石は、ルエルの涙が次元を超え結晶化したものだった。
人々の邪念は初め地上に滞留したが、ルエルの世界が星の一部になると、星の地下へと沈んでいった。
反対に、ルエルに奉げられた崇高な祈りは天を目指し、グーラント山の頂に届くと輝石に蓄えられた。

はじめて輝石に宿るチカラが解放されたとき、ルエルは観た。
ラルグとバナン、束の間の平和、ヴァールとレックスの闘争、ある王国の滅亡。
未来に展開する悲劇は、自分がこれからラルグに与えるであろうエメラルドから延びる直線上にあった。

もっとチカラがあれば。
ルエルは輝石のチカラを全て解放しようとしたが出来なかった。
チカラの解放は炎に依らなくてはならない。
今なら物理的に炎を生み出せるが、しかし、その今準備されている未来は確定ではない。
だからルエルは解放されたチカラをちょっとだけ使って輝石にまじないをかけた。

 鋼にチカラを宿らせ、眠るようにと。

 異国の結界の中で護られるようにと。

 再び戻ってくるようにと。

顕現の振り子の軌道は有限だが、右から左、左から右の間には、無限個の一点が連なっている。

あの日ルエルが見た未来。

200年以上前に振り子が顕現のために準備していた「今日を指す」位置。

それは、どれ程かは分からないが、確かに変わった。

輝石はアムクンと共に海を渡り、時を越えて利根九郎と共に戻って来た。
ついにはビータの護りとなり、ルエルの願いは成就した。

 − アムクン、九郎      −
 − ありがとう        −
 − さぁ、ウル        −
 − ビータの所に戻りましょう −
 − ナミも一緒にね      −


−完−






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