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   フェアリーズエメラルド 二次創作ショートストーリー Houbou様から戴きました!

     FEAA(フェアリーズ・エメラルド アナザー・アクシス)

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   FEAA 第八話 集う者


− 午前11時14分 ラルターム陣営 −

オーディーは、トーンをクリフのもとへと案内し、さっきの話をするようトーンに頼んだ。

 「その話、にわかには信じられないが……。
  それで、トーン殿は、これからどうするおつもりですか?」

 「あの『ルエル』という神霊の声、聞き覚えがござりまする。
  一度なら狐につままれたとして得心できましょうが、二度、三度となると、そうは参りませぬ」

 「独りでこの軍勢を止めると」

 「御意」

 「分かりました。
  私はクリフ・ラルターム」

 「ラルターム公、これにて御免仕ります」

トーンは賛同者を募るでもなく、腐るでもなく、憤るでもなく、ただ静かに歩き出した。

 「クリフ様、これでは」

 「出発まで、まだ時間がある。
  私達ができることをする、それだけさ」

オーディーは、去るトーンの背を見つめ、何も出来ない自分が悔しくてならなかった。

 (オーディー、考えろ)
  :
  :
  :
 「オーディーさん、」

幼い声にはっとした。

 「今の話は本当なんでしょうか?
  ごめんなさい、全部聞こえていたの」

ストンウォール城から持ち出した天幕は、レックスが使う以外は傷病兵に当てられていた。
ここでも、トーンの話は周囲に丸聞こえだった。

 「セシリア殿、イヴ殿……。
  分かりません。しかし、トーン殿はこの先のどこかで待つつもりなのでしょう」

 「あの人死んじゃうの?」

 「(セ)……」

イヴは何か気休めを言いたかったが、思いつかなかった。

 「だってイヴ、
  他国の王子様が人質にされて、無理やり戦わされるなんて。
  トーンさんは、日没まで待ってってお願いしただけなんでしょ?」
  わたし、」

 「セシリア……様?」

 「イヴ、わたしはルエル様に仕える身。
  トーンさんは、ルエル様に命じられたって言ってたわ。
  わたし、トーンさんの所へ行く」

 「セシリア様、無茶を言わないで下さい!」

 「イヴ、この戦いは誰のための戦いなの?
  エンドル家とウォード家が争っているだけよ。
  関係ない人達が巻き込まれるなんて、わたし」

セシリアは自分が人質となったばかりに、両親がヴァールに利用されたことを苦にしているのをイヴは
知っていた。それはお嬢様のせいではない、悪いのはヴァール・ウォードだ、と言おうにも、ヴァール
の挑発にレックスが乗った結果、物資提供を強いられた。

 (王都だけで済ませてくれればいいものを)

イヴは、何度も慰めの言葉を考えたが、利発な少女は容易く見透かすだろう。

 「…… ……。
  確かに、理不尽ですよね。
  分かりました、行きましょう」

 「イヴ、死ぬかもしれないのよ」

 「それでも、セシリア様……。
  イヴは、セシリアと一緒にいたいのだから、仕方がありません」

 「イヴ、」

オーディーは黙って聞いていた。こんな少女でさえ自分の生き方を決められるのに、騎士の身分にとら
われた自分は、なんと窮屈なんだろうか。
セシリアとイヴが去ろうとすると、

 「おーっと、お姫様を護るのはカッチョイイ騎士様って、昔から決められてるんだぜ」

 「カーヴィお前、騎士だっけか?」

カーヴィとカロスだ。
トーン、カロス、カーヴィはカルラが縁で顔見知りになった。
トーンが今朝方まで持っていなかったカルラを背負っているので気になって来てみたところ、どえらい
事をするつもりらしい。そこにセシリアの話だ。
放ってはおけない、互いに頷き、それで充分だった。

 「それに、そっちのこえー感じのお姉ちゃんを入れりゃ、
  1.5人のお姫様だ」

 「1.5ってお前」

 「ほお、なかなか無礼な殿方だな
  とは言え、半分でもお姫様と認めてもらえたのは、悪い気はしない、か」

 「お、その強気なところ、それに、その横顔……。
  どストライクじゃねぇか!
  えー、おほん」

カーヴィは咳払いをすると、とびきり上等の余所行きの声で、

 「申し遅れましたが私めは、カーヴィ・ホーネット、以後お見知りおきを」

 「なかなか、ふざけた奴。
  さぁ、セシリア、行きましょう」

 「ちょちょ、待って。俺様も一緒だって」

 「俺様じゃねぇ、カーヴィ。オイラ達だ」

 「おっと、そうだった、でもよ、
  あんま、俺の昔話とかすんなよ」

 「誰もしねぇよ、あんなことや、こんな話はナ」

 「ほぉ、面白い。後でゆっくり聞かせてもらおう、カロス殿」

 「そりゃねぇよ。
  おい、カロス!」

笑いつつ陣を離れ行く姿には死を予感させるものなど微塵もなく、また、あたりを見渡しても、彼等を
見送る者などない。せめて森の入り口まで。

 (私に出来ることは、これぐらいなものなのか!)

オーディー等5人の背後から、呼び止める野太い声。

 「よぉ、クレア嬢に、マテクの坊さん。
  それにバリーの旦那も」

 「おい、『も』ってなんだ、『も』って。
  それより、カロス。
  行くんだろ?」

 「へへっ、お見通しですかい?
  そーゆー旦那も」

 「ああ、トーンはクレアの恩人だからな。それに、
  あの話はタコサマじゃねぇ」

 「タコサマ??」

 「ふふん、分からねぇのも無理はねぇな。
  何せ、俺がたったいま編み出した新語だからな」

 「……」

 「タコはイカより足が少ないだろぉ。
  つまり、イカサマにもなってねぇ、みえみえっつー意味よ」

 「……く……、くく……」

 「ねぇ、イヴ、わたし良く分からないんだけど、
  おかしいの?」

バリーが「タコサマじゃない」、と断言するには訳があるらしいから、聞いてみよう。

 クレアが言うには、ラーナンドからこっち、今朝まであの剣は持っていなかった。

 この先でゲットしたのは間違いない。

 仮に、隣国と結託して聖王国軍をハメる作戦なら、何故ラーナンド周りなんだ?

 どんぴしゃのタイミングでご登場とゆーことは、

 あいつは国では旅行代理店のエースだったに違いない、さもなくばエスパーだ!

 エースだかエスパーが剣士に転職したとして、にわか剣士には到底見えない。

 決定的なのは、クレアはともかく、チョビ髭を連れてくる意味が分かんねぇ!!

だ、そうだ。

 「けっ、この熊野郎、まんまと気を引きやがって」

 「あ?聞こえたぞ、チョビ髭野郎」

 「にいさま、」

 「クレア、俺は何も悪くないぞ、ホントの事を言っただけだ」

 「にいさま、ってオイ……このお嬢さんの……ええーー??」

 「何か文句あんのか?チョビ髭、」

バリーがカーヴィのこめかみをグリグリやりだした。
太い腕で鼻と口を塞がれているのでカーヴィは声を出せない、とゆーかチアノーゼ気味。

 「にいさま!」

 「クレア違うんだ、このチョビが」

クレアはセシリアの前にしゃがみ、両手を握った。
なんて小さな手だろう……堪らず涙がこみ上げてきた。
うるんだ目を見せないよう立ち上がり、こぼれないよう上を向いた。

 「これで6.5人、半端は勿論カーヴィ殿だ。
  さぁ、急ぎましょう」

木漏れ日がそれぞれに玉模様を投じ、だんだんに小さく薄くなり、談笑する声も届かなくなった。

行ってしまった……。
トーンを入れても、たったの8人か。
トーンとマテクは、弟のヴィリが世話になった。

 (まだ出来ることはある)

オーディーは再びクリフのもとを訪れた。

 「ルートン家のセシリア殿とイヴ殿、他5名がトーン殿の加勢に向かいました」

 「そうか」

 「お話が」

 「だいたい察しはついている。
  が、暇を出すつもりは無い。
  もう暫く付き合ってくれ」

クリフには何か策がありそうだ。

 「ラルタームの兵で露払いをする、と話は通してある」

クリフは2挺の斧をオーディーに渡した。

 「倒木は面倒だからな。ガイを連れて行くといい」

オーディーは主に迷惑が及ばないように、ラルターム家を出てトーンの所に行く決心をしていた。
しかし、その主がほのめかしたのは、紛れも無くラルターム一家ぐるみでの進路妨害だ!
そういうことなら早速と踵(きびす)を返したが、頭に包帯を巻いた兵が真後ろに居て驚いた。

 「クリフ様、こんな感じでよろしいでしょうか?」

一段とオーディーの驚きが増したのは当然である。
その声、包帯で圧迫されて鼻声になってはいるが聞き違えるはずは無い、包帯兵はミーティだからだ。

 「ミーティ、その怪我は?!!」

ミーティはオーディーに向かい、口を真横に開いて歯を見せた。
辛うじて両目は出ていたが、鼻から上が包帯で覆われているから頬の運動が阻害されて口がうまく開か
ず目に表情が出ない。きっとミイラが笑うとこんな感じなのだろう。驚きも手伝って、とても人の笑顔
には見えなかった。

唖然としているオーディーだったが、クリフもなんとなくニヤケ顔をして、いや、これは得意顔だろう。

 「狭い森の道に座り込む負傷兵、馬は通れないよ。
  どうだ、名案だろ」



− 午前11時51分 静かなる森 −

 「よお、三本差しの旦那」

静かに立ち尽くす剣士に声をかけた者がいた。

 「お主はいつぞやの」

ラグだった。

 「お茶濁し程度だが、時間稼ぎなら手伝うぜ」

 「どういう風の吹き回しじゃ?」

 「俺もあの場所にいたのさ」

レックスの首をしつこく狙っていたのだが、どういう訳か心変わりしたらしく、根城に戻る算段を練っ
ていた。海を渡り、かなり遠くへ来てしまったので帰るに帰れなくなった。目処が立たないまま彷徨う
うち砦を見つけたので、これは久しぶりに旨い物を食えると物色していたら、見覚えのある剣を持つ者
がいたので追ってみると。

 「足止めの罠を仕掛けてやろうや」

 「お主には無関係じゃ。
  本気で来るやもしれぬでな」

 「まぁ、そう言うなって。
  何かを信じて死ねるなら幸せって事もある。
  旦那は蔓(つる)を集められるだけ集めてくれ、」

頭上から二つの影が降ってきて、ラグとトーンを隔てた。

 「おっと」

 「ラグ、今度こそ逃がさんぞ!」

セカルとシン、ラグを追っているうちに聖王国軍に従軍することとなった山の民の兄弟だ。
広域偵察を終え本陣に戻る途中でレックスの首を狙う宿敵を見つけたからには決着をつける気だ。
が、ラグに向けられた殺気を遮ったのはトーンだった。

 「しばし待ってはくれぬか。
  待てぬなら、仕方が無い」

トーンはラグの傍らに並び、兄弟と対峙する姿勢を示した。
多勢に無勢、万にひとつの勝ち目すら期待できない戦に付き合ってくれると言う者を見殺しにはしない。
ラグはトーンの肩をポンとやると、

 「旦那は怪我しちゃいけねぇ」

兄弟の前に歩み出て、両手を広げ、

 「殺るなら殺れ。
  旦那すまねぇ、手伝えなくなっちまった」

目を閉じた。
数ヶ月前、まだ死ぬわけにはいかない、とアイヒェルの村付近の山中に消えたラグが、今は死んでいい
と言っている。

 (奴はまだ目的を遂げていないのに、この著しい変化は何だ?)

 「どういうことだ、ラグ」

ラグはヤレヤレといった感じで兄弟に背を向けると、

 「殺らないなら邪魔するな」

木の皮を剥がし冬眠中の虫を採集しだし、トーンも蔓(つる)を引っ張っては手繰り、を始めた。

 「兄貴、どうなって?」

 「俺にも分からん」

二人とも、どうすべきか分からなくなってしまった。

 「旦那と俺はルエル様を見た」

ラグが何かを語り出したようだ。

 「……ルエル……様だと??」

 「ルエル様は旦那に、聖王国軍を日没まで止めろ、と命じた。
  俺はその手伝いだ」

まったく要領を得ない二人に、

 「お前達が手伝ってくれるなら歓迎するぜ」

背を向けたまま、せっせと体を動かしている。

 「兄貴、聖王国軍を止めるって」

 「馬鹿げている。
  しかし、ラグとあの剣士はルエル様を見た?」

普段見えないものを見たという話は眉唾モノだが、大の男が二人も同じ方向を向いて作業をしている。
棍を突き立てて、腕組みしてしてみても、分からないものは分からない。そのうちシンが何かに気付い
たようで、地面に耳を当てた。

 「一騎、近い!」

現れたのはオーディーだった。

 「トーン殿、」

 「ラムナス殿か、
  あいにく、今忙しくてな」

 「敵襲はないようですね」

オーディーは砦の敵も今は動かないと確信を得た。
トーンが話した、ザルス宰相がうまくやってくれている証拠だろう。

 「もうじき仲間が来ます」

 「なんと、自殺行為じゃ!
  戻るように……ラムナス殿?」

 「ラルターム家の兵が先行し、道を塞ぎます。
  これは、とある方の受け売りですが、
  倒木はやっかいですからね」

 「……そういうことでござるか。かたじけない」

 「冬の陽は儚く、何より森の中なのが幸いでした」

二人のやりとりを見ていた山の民兄弟は、ラグを信用せざるを得なくなった。
ラルターム家の騎兵長がやって来て、トーンに組する者が更に増えると言うのだ。

 「何を手伝えばいい?」

セカルがラグに問うと、

 「へっ、ちったぁ話が分かる奴になったみてぇだな」

 「急いでいるんだろ、早く指示を出せ」

 「ふっ、そうだな、枯葉と枝、柔らかい土も要るな。
  シン、籠を編んでくれ」


セシリア一行が到着すると、オーディーは男衆を集めて相談を始めた。
木は倒さず、途中まで切って楔(くさび)を施す。ラルターム軍のしんがりが通過する際に楔を外し、
押せば倒れるようにしたい。迂回した先にも倒木。
こういったポイントを何点か設ければ、かなり時間を稼げるはずだ。
さっそくバリーが名乗りを上げ、オーディーはバリーがきこりと知って喜んだ、のだが。

 「まだまだ若造には負けぬ」

ガイが怪気炎を上げ出した。上半身の衣を脱ぎ捨て「きえーっ」と気合を入れるとパンプアップ完了。
くちばしの黄色いひよっ子呼ばわりにバリーも黙ってはいない。

 「おやっさん、年寄りの冷や水なら止めておいた方がいいぜ。
  餅は餅屋、木を切るならきこり、はれ?」

ガイは走り出していた。そしてジャンプ!上ではない、低く長い軌道だ。
重い鉄の斧を持って跳ぶのも並じゃないが、片手で持つ斧の頭が下がっていない。
そのまま前方の幹に渾身の斬撃。

 ぼくりっ

斧の柄が折れた。
どうだ!とばかりに振り向くと、コブの様な僧帽筋あたりから立ち上る湯気。

 「おやっさん、すげーじゃねぇか。だが、
  道具は大切にしねぇとな」

バリーは腰に下げていた小さ目の手斧を渡そうとしたのだが、オーディーが予備を出してくれたので、
しょげることなく力仕事に就けそうだ。

一方、集めた虫を土と枯葉にまぶしているのはラグだ。

 「お前達も見て来ただろ。
  命乞いする者、」

いくつかの籠に分け、蔓(つる)を結びつけた。

 「敗走する者。
  ありゃ、酷すぎる」

低い枝に跳躍し、するするとやや高い所まで登ると、蔓(つる)を投げてもらった。
慎重に籠をたぐりつつ、

 「討ちもらせば、背後からつけ狙われる。
  近隣村で賊行為を働く者も出る」

吊り下げて、飛び降りた。

 「兵糧は、穀ひと粒もやれないから捕虜はいらない。
  確かにその通りだろうが、無慈悲だ。
  そこまでして生きたいなら、醜いまま生きりゃいい」

山の民兄弟は何も言えなかった。
自分達は、直接「粛清」に手を染めたわけではないが、それを行った集団の中にいたことは事実だ。

 「よし、次の準備だ」




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