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   フェアリーズエメラルド 二次創作ショートストーリー Houbou様から戴きました!

     FEAA(フェアリーズ・エメラルド アナザー・アクシス)

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   FEAA 第七話 光源の優劣


− 聖王国暦204年 12月03日 午前9時25分 −

聖王国軍は午前8時に行動を開始し、現在は2回目の行軍に備えているところだがトーンは何か胸騒ぎ
がしていた。

 「これはトーン殿。
  あと5分ほどで出発ですね」

 「つかぬことを、お尋ね申すがラムナス殿、この先は?」

 「ドルラドア領内、『静かなる森』です。
  コーラレイ王国はまだ先ですね」

 「なんと、コーラレイ王国とは真にござるか!」

 「はい、聖王国軍はコーラレイ王国を経由して王都に至る予定です」 

いきなりトーンが走り出した。

 「トーン殿、どちらへ?」

 「ちょっと気がかりがござりましてな」

馬に跨ると、駆けて行ってしまった。


森に入ってどれぐらいだろうか、前方に数名、見慣れた装束の者達が現れた。
彼等はトーンを見るなり抜刀したが、ひとりがそれを制止し向こうへ行くように指示したようだ。

 「トーン殿、驚きました。何故ここに」

 「ザルス殿……」

トーンは食糧支援をウォード侯から受けるようになったこと、そのウォード侯によりビータ王子が拉致
されたこと、コーラレイ軍はウォード軍に協力せざるを得なくなったことを聞いた。
ラートは王子を諦め国を優先するよう王に進言したこと、王の逆鱗に触れ先陣の指揮を命じられたこと、
今は作戦立案のため自ら地形の把握に努めていることを語った。

 「斯様(かよう)なことが……。
  して、ウォード侯とやらは、いずこに?」

 「斬るおつもりでしたら無駄です。
  彼奴目は、ラスオール城、エンドルアードの王都にいます。」
  恐らく王子もそこに」

 「おのれ、ウォード……。
  何とかなりませぬのか、何か方法が、」

 「こうなっては、もう……。
  それより、これをお返し致します」

ラートは馬の鞍に懸けてあった剣をトーンに渡した。

 「これは!」

 「恥ずかしながら、私もその剣に肖(あやか)りたくなりまして」

トーンが柄(つか)を上に向けてカルラを受け取ると、どこから現れたか、T字の把にウルがとまった。
平時なら笑うこともできただろうが、このままでは両軍の衝突は不可避。
どちらにも顔見知りがいるトーンは、何とかしたい。
しかし、聖王国軍はあと数回の行軍でここまで来るだろう。

 「ザルス殿、何かあるはずじゃ、何か」

ラートは急くトーンの顔を見ることができない。
バスドン国王が篭絡におちた今、ヴァール・ウォードはビータ王子の生死を偽ってでもコーラレイ王国
を髄までしゃぶるつもりなのは明白だ。反対に国王が国をとるなら、王子が殺されるだろう。
トーンが納得できる結末は、両軍の決着がつく前に誰かが王子を救うしかない。

 「とくと分かり申した。
  某はこれよりラスオール城へ向かい若様を」

 − 九郎  −

 「!!」

 − ラート −

 「!!」

向こうの景色が歪み出し、こちらと、あちらの境界が虹色を帯びている。
美しい声がして、二人の周囲が何か得体の知れないことになってしまった。
そしてもうひとり、木に隠れていた誰か、コーラレイ兵ではない誰かが、その空間に呑み込まれた。
一点に無数の光の粒が集まりだし、加速していき、人の形に成った。

 − 私はルエル            −
 − ビータ王子のことは知っています  −
 − 一緒に助けましょう        −

 「ルエル様?!これは夢か」

 − ラート              −
 − 夢ではありません         −
 − カルラがチカラを運んできたのです −

 「カルラ!!」

 − その説明を求めてはいけません   −
 − ラート              −
 − 貴方は九郎の石を燃やすよう    −
 − 王子に手紙を書き         −
 − そのカラスの足に巻いて放しなさい −

 「??」

 − 九郎               −
 − 貴方は戻り            −
 − 日没まで             −
 − 両軍の接触を阻止するのです    −

 「!!」

これだけ告げると、ルエルと名乗る光、強烈な輝きだが眩しくない不思議な人影は霧消してしまった。
周囲はごく普通の森の一角に戻り、遠くから徐々に感覚がもどり始めた。

 「クロウノイシとは?」

 「若様に緑色の結晶が入った御守り袋を献上仕った」

 「……」
 「……」

 「!! 
  そうじゃ、一緒に若様を救うと仰った」

 「しかし、あれは」

 「某も同じものを見、同じ言葉を聞き申した。
  されば、何を迷うことがござりましょうや、ザルス殿」

 「!確かに、急ぎましょう」

両名が弾かれたように、それぞれの方向へ走り去ると、太い幹の陰からひとりの男が出てきた。

 (ルエル、……さま?)



− 午前11時08分 −

聖王国軍は森の手前の草原で、午後の行軍に備えていた。
そこへ、南から1頭の馬がものすごい勢いで駆けて来ると、ペガサスのいる陣へと突進して行った。

 「お屋方様にお話が」

 「何事か、トーン殿。
  その剣は?!」

ニールは驚いた。
トーンはカルラをコーラレイ王国に置いて来たと語った。
昨晩のことだ。
そのカルラを携えているのは、コーラレイ王国の何者かと接触した事を意味しているのでは?
しかし、なぜ?

 「トーン?
  許可します」

 「恐れながら、日没までお留まり下されますよう、お願いに参上仕った次第」

 「どういう事ですか?」

 「先ほど、この先の森にて『ルエル』と名乗る神霊より仰せ仕りて候」

 「ルエル、様!」

ルエルと聞いた途端、レックスの表情が険しくなった。

 「何をバカな」

 「この先の砦にはウォード軍とコーラレイ王国の兵が詰めてござります」

天幕はまだ設営中で、レックス等は仮設のターフの下で休んでいた。
そのため会話は筒抜けで、とりわけ不快な声が総大将から発せられれば、周囲に人が集まるは必然。
それでもトーンは構わずコーラレイ王国が参戦することになった経緯を話した。

 昨晩、合流した連中は紛れもなくシルドーワ港経由
 それに、あの剣
 ヴァールめ、ついに隣国をも駒としたか
 進退いずれもどちらかが倒れるは必至
 あるいは時間稼ぎの罠か?

 「ここは、慎重に、」

ニールが言いかけたとき、レックスの怒声が飛んだ。
激しくトーンを睨みつけ、

 「黙れ、ルエル様を騙(かた)る不届き者が!
  目障りだ、下がれ!!」

 「お屋方様、今一度、」

 「くどいぞ!
  誰かこの男を連れて行け!」

ますます大きくなる声に野次馬は散りだしたが、トーンは両の掌を地につけて動かない。
レックスがいよいよ抜刀しかけたとき、トーンの背に手をあてた青年がいた。

 「トーン殿、こちらへ」

 「オーディーか、助かる」

忌むような目線をトーンの背に浴びせ続けていると、天幕の準備ができた。
入り口の布をバサッとやるなり、

 「異人の分際で軽々しくルエル様の名を騙るなんて、許さない
  絶対に認めない」

ヴァール・ウォードとの戦の最中、冷めやらぬ怒りの矛先がトーンに向けられているのが、ニールには
不自然でならない。

 (午後の行軍は3単位、砦を視野に入れるまでは進めるだろう
  冬の森は寒く、ここで明朝まで待つのも手。
  兵の回復も……)

レックスの荒れ様を詮索するニールに、不安そうに耳打ちした娘はヴィラだ。

 「お父様、コーラレイ王国とのお話ですが」

 「うむ、まだ詳細はつかめておらん」

ヴィラは、せわしなく右足の踵(かかと)でドンドンやっているレックスに、不吉なものを感じずには
いられなかった。

 (このお方は、今何を見ているのだろう。
  姉さま、アヴァロン……)

忠臣の不安をよそに、

 「いや、嘘だ、嘘に決まっている」

 「あの異人は嘘をついているんだ」

独り言を垂れ流し続けるレックス。
シャーリーがよい香りのお茶を勧めたので、なんとか席につきカップを口に運んでくれたお陰で、ヒリ
ヒリした空気が一段落した。

 「レックス様、失礼致します」

天幕の外で機会を窺っていたクリフだった。

 「ノークルト公と戦術の確認を致したく」

レックスは勝手にしろと、言わんばかりに顎をしゃくった。

クリフは卓上に持参の地図を広げ、ドルラドア−エンドルアードの街道を選択する場合の効果について
話し始めた。

 「まず、コーラレイ王国が参戦したと仮定して、」

街道で思うように進めないうにち、コーラレイ軍のペガサス部隊に側面を突かれるだろうが、戦力を増
強すればなんとかいけそうだ。義勇兵頼みでは兵糧対戦力のバランスがとれないが、背後にルートン家
がついているので粘れば勝機は在るかもしれない。これが最もコーラレイ王国側の損害が少なくて済み、
最も王都に近く、最も早く終結するのではないか?

ニールが、ウォード軍が街道を分厚く固めているので避けたことは貴公も知っていようと一蹴すると、
レックスは呆れた様に二人から離れてしまった。

クリフはレックスをちらりとやると、案を譲らない振りをしつつ忍ばせた紙片をそっと取り出しニール
に見せた。ニールは目で合図を送り、もっとましな案を持ってきてくれ、と地図をたたみクリフを天幕
から追い出した。

そっぽを向いて落ち着きなくしていたレックスだったが、ピタリと静止すると虚空に決意らしきものを
吐き出した。

 「異教徒に邪魔はさせない」

先ほどまでの剣幕とは対照的なサバサバした表情の裏側は、生煮えのようで気味が悪い。
誰もが聞かない振りをしてやり過ごすだろうに、ニールは反応してしまった。

 「異教徒……オル・ノークルト……」

 「ん?オル・ノークルトがどうした?」

 「いえ、それより今は」

しまった!これはノークルト家が葬るべき秘密。
レックス様が奏でる不協和音に蝕まれたか。

 「どうした、ニール。
  答えろ!」

 「それは、」

ニールは200年前にラーナンド地方で起きた異民族の反乱の真相について語った。
オル・ノークルトは詳細を伏せたため、『森の民』の顛末はラルグ王すら知らない話だ、と。

 「そんなことが……。
  山賊共の蜂起は、ある意味、復讐の機会でもあったわけか」

ニールはレックスの顔を見ないようにした。
声の調子からして、嘲笑に満ちた憎い顔をしているだろう。
知らないばかりに老兵を頼った結果、随分と危険な所にいたものよ。
これではラルターム家に身を寄せた方がよかったか。
今のレックスなら言い出しかねない。

 「ニール、予定通り進軍だ」




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