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   フェアリーズエメラルド 二次創作ショートストーリー Houbou様から戴きました!

     FEAA(フェアリーズ・エメラルド アナザー・アクシス)

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   FEAA 第六話 続き行くは


森の中へと降下するペガサスの背で大人気なくはしゃいでいる男。
荘厳な建築物が見える。

 「おお、あれが『古の神殿』か、アヴァロン」

アヴァロンとはペガサスに付けられた名だ。

 「そういえばグレイアーク城に立ち寄った折、生まれて初めて天馬を見申した」

今朝、砦を経つときにした世間話だったのだが、聞いた側のペガサス・ナイトは懐かしむような笑みを
返した。ルイーゼと名乗るこの天馬の騎士は、アヴァロンにはキャメロンという兄弟馬がいて、グレイ
アーク城主の娘が主だという。

 「元気だったかしら?」

 「それはもう、城の露台から飛び立つ姿は雄姿そのもの。
  騎手がまた快活な娘で小気味よく、天馬もよく懐いてござった」

着地すると二人は大理石の階段をのぼり、制止を促す兵に書類を見せた。ラートが発行したものである
ことが確認されると、入り口を塞ぐ2振りの槍が跳ね橋のようにどけられた。奥は薄暗くてよく見えな
いのだが、突き当りの壁には灯明に囲まれた女神の像が浮き上がっている。炎の明かりに縁取られた白
い肌は神々しい限りで、この先の空間が浮世とは隔絶された世界であることは間違い無さそうだ。
気圧されながらもホールに踏み入ると、トーンはいよいよ言葉を失った。
色ガラスを透過した陽光が中空に幾すじもの光条を描き、床や壁に投影された文様は美しく滲んでいる。
満ちるひんやりとした空気、神聖さに包まれた彫刻の数々はメッセージを投げかけているようだが捉え
きれない。いつのまにか思考が止み、一切がどこかに掻き消えて澄みゆく意識。

 「こちらです」

トーンは、神殿の中央にある玄室へ案内された。
中央に置かれた石棺と、その向こうの壁に並ぶ、剣、槍、弓。
それらの武器はいずれも堂々としてそこに在り、何かが通っていて、ひょっとしたら語りかけに応じる
のではないか?トーンは、初めてカルラを手にしたときに伝わったのと良く似た霊性らしきものを感じ
取った。

 「雨邦作 迦楼羅(カルラ)。業物ですぞ」

剣を石棺の上に置き、合掌すると、まるでカルラが打たれた当時の風景が目に浮かぶようだった。
そしていま、アムクンは思いつくままに旅の話、異国の話を師匠に聞かせているのだろう。

 (あれは、こういう事であったか)

アシエの町の寺院で感じた空隙が埋まった気がした。
トーンは深く息を吐き出すと、傍らで見守る騎士に「終わり申した」と告げた。


− 数日前 −

ラートは雨が止むのを待って、使いをアシエの町にやった。

 「こんな夜更けにお呼びたてして申し訳ございませんでした。
  実を申しますと、」

ラートは『古の神殿』について語った。

 「すると、昼間訪れた寺は?」

 「あれはニセ物ではありませんが、不届きな輩の目を逸らす目的もありまして」

バナンとその弟子の作品を狙った盗掘が横行した時代があるらしい。
いまは厳重な警備のもとで国が管理しており、神殿は、公には「立ち入り禁止の遺跡」として扱われて
いるのだとか。ラートは旱(ひでり)の影響で国の中央部を抜けるのは無理だとした上で、

 「砦伝いにペガサスで移動する手があります。ただ、」

往復で5−6日程度の工程だが、ペガサスの都合上、マテクの同行は不可である。
マテクは、「拙僧のことならお構いなく」と言ってくれたので、トーンはラートの提案に乗った。


トーンが不在の間マテクはスレイプニルで町と城を往復し、城の礼拝堂で祈り、城兵らの祝福と治療を
して過ごしていた。その初日、城門でスレイプニルを係りに預けたとき、鞍から黒いものが飛び立った。
それは城のテラスへ向かいビータの気を惹くと再び降下してスレイプニルにとまったのは、友達を紹介
したのかもしれない。ビータはまたしてもホールに現れ、

 「あれはマテクさんのカラスですか?」

 「ウルと申します、殿下」

テラスに出ると、後ろからスパッと頭をかすめて壁にとまる。
怖気(おじけ)ずに寄ってきては、与えたものを一生懸命に残さず食べる。
ときどき、頬張り過ぎてポロッとやるが、再び上手に拾う。
食べ終わると、水平に出た旗竿を見つけてカシカシくちばしを拭い、両翼をバサッとやり体を膨らます。
カラスなら花壇をほじくったり、馬のたてがみを引っ張るような悪戯をしそうなものだが、ウルは城の
敷地内では行儀良く振舞った。まぁ、与えすぎると植え込みに貯食するのだが。
ビータはそんなウルが大好きになった。


− 古の神殿からの帰路 メルフィス高地上空 −

アムクンの遺言を果たしたトーンは、ペガサスの背から地上を眺めて「ほう」と感心した。

コーラレイ王国の東部はヴィルタリアに近い気候なので、ホルスワート峠を西に越えた所でも比較的雨
が降る。一方西部では、ドルラドア地方から来る湿った空気がグーラント山を越えるときに雨を降らす
ので、グーラント山から西側も降雨がある。しかし、中央部の大半を占めるメルフィス高地は西のグー
ラント山系と、北の国境をなす峰々に遮られて乾燥の強い地域となっていた。
今夏の旱(ひでり)で、高原の砦では人よりもペガサスの飲み水を優先させていたという話だったが、
神殿までの片道は砦で休む頃になると必ず雨が降った。

 「雨邦の想いが天に通じたか」

茶一色だった大地の所々に緑が混じっていた。



− 10月下旬 ラーナンド地方 −

9月下旬にローブルス城を経ったトーン等は、ラートの厚意でホルスワート峠まで馬で送ってもらうと、
またいつものようにマテクがスレイプニルの背に、トーンは徒歩となり、ラムナス家のある町を目指し
ていた。

城を出る直前、ラートから聖エンドルラルグ王国は内戦状態にあることを知らされていた。
にもかかわらず、ヴィルタリアは至って平和で半信半疑であったが、ラーナンド地方に入り『南の砦』
に寄ったところで認めざるを得なくなった。砦から出てきたのは正規兵ではなく数名の『山の民』で、
ラーナンド地方を暴徒の群れが襲ったというのだ。

暴動はグレイアーク城を最後にほぼ沈静化したのだが、去る8月中旬、行方不明だった第二王位継承者、
レックス・エンドルが聖王国軍を組織、暴動の首謀者ヴァール・ウォードに宣戦布告した。
聖王家に仕える領主も動かせる兵の殆どを動員して戦列に加わったため、ラーナンド地方の治安は民間
人が担うことになった。
当初、討伐を免れた残党が居つくと懸念されたが、賊共は遅れてやって来た者達を巻き込んでピラーノ
が巻き上げた大量の物資に目標を移し、クライン砦に向かったのが幸いだった。
近頃は城や町村に残された兵が回復して来たので、徐々にではあるが街道にも手が回るようになったの
で、昼間に襲われることはないだろう。


その夜。
トーンは村からそう遠くない所で焚き火をしていた。
火の向こうには、盛土のドームが規則的に並んでいる。

 「ご苦労様です」

 「なんのこれしき、朝飯前でござる」

 「朝までは、かなりありますね」

 「ものの喩えでござるよ。坊様は村に戻って下され」

トーンの旅はマテクが同行してくれたお陰で宿には困らなかった。
というのも、集落の寺院で寝泊りでき、夕食を摂ることができたからだ。

木枯らしが吹く頃になると一層、「巡礼になる」と突然言い出したマテクの優しさが身にしみる。
村には小さいながらも寺があり、今日は生憎という訳でもないのに、トーンは何をやっているのか?

数日前の村のそばでは合戦があった。
村では敵味方の区別無く死者を葬ったのだが、幾つかは掘り返され副葬品目当ての墓荒らしが出たとの
ことだ。当時は聖王国軍の発足前、つまり宣戦布告の前だったため、長期化をにらんで戦死者の装備を
使いまわす事は無く、遺体はそのまま埋葬されたという。

火のそばにマテクが腰を下ろした。
相変わらず明いているのか、瞑っているのかわからない目で黙っている。

トーンは焚き火を挟んでマテクの反対側にまわり、急に火に息を吹きかけ出した。風は弱く、何もしな
ければ煙はほぼ真上へ立ち昇り、これなら苦い思いをせずに済むのだろうが、トーンは蛙のようにしゃ
がみ、しきりにフーフーやっている。
もしかしたら、遣(や)った煙がマテクの目にはいって涙が出るなら、あの目は明いている事になる、
という意図だろうか。とうとう、ぜいぜいになったところで、

 「坊様はその目で何を見ておられるのじゃ」

 「ただ、あるがままに見送っているだけです」

 「見送れぬものは在りや」

 「これは内緒ですよ」

手招きするマテク。
なんじゃ、ひそひそ話か。
トーンはマテクのそばに寄ると、大袈裟に耳に手をかざした。

 「例えばそうですね、あれでしょうか」

突如、疾風が巻き起こり、激しく火の粉が舞い上がると、マテクの直前で何かが粉々になって落ちた。
直前の風きり音。残り火を反射する鋭い金属。
トーンは、もう矢の飛んで来た方向へ走り出していた。

 「エアブレイド?!」
 「賢者か」

墓地の向こう、先の林からだ。

 「来るぞ、散れ!」

トーンは木の幹に半身を潜ませ、2撃目の矢を準備する者に猛進する。
露(あらわ)な半身、矢を次ぐ右手を狙って鎖分銅を投げた。
鎖はうまく相手に絡まったが、もうひとり幹から出て、トーンの右側だ。

弓手は囮で、本命が力任せにブロードソードを薙ぐ。
トーンは右足を踏ん張り、反動で左方向へ転げると鎖を思い切り引っ張った。
右腕を絡めとられた者の肩がはずれ絶叫が響き渡る。

トーンは本差を抜き眼前の敵を牽制しつつ、自分が焚き火を正面から捉えられる位置に誘導した。
マテクは……いない。

にじり寄る気配。
一瞬呼吸を止め、全神経を研ぎ澄ますと、足音は・・・…重い、剣ではない、真後にひとり。
トーンは脇差を逆手で抜いた。
戦斧を振りかぶる衣擦れ。

正面の者は巻き添えを食わぬよう仕掛けてこないか、側面に移動するはず。
横に退(の)けば、ブロードソードの突きが来る。
が、トーンは位置が固定の斧男ではない方に顔を向け、左目を閉じ右に踏み出した。
同時に脇差の柄(つか)を本差の鍔(つば)に打ち付けると、暗闇に激しい火花が散り、敵は幻惑され
てトーンを見失ってしまった。

脇差の柄頭には火打石が取り付けられていたのだ。

斧が地に突き刺さった体勢の男の上腕に脇差が突き立てられ、閃光に足を止めた男は腹部を本差で払わ
れた。

 「邪剣 瘴明(ショウミョウ)」

再び上がる絶叫に、誰かが業を煮やして叫んだ。

 「何をやっているのです、早く片付けなさーい!」

ワッツ・ピラーノ。
しぶとく生き残っていた。
クライン砦陥落後、シルドーワ港での”復権”を画策し、北上していたのだ。

聖王国軍の遊撃部隊あるいは後方支援を騙(かた)り、義勇兵を募り武具を無料で貸与する。
何度か仕事をさせて資金が出来たところで、悪度胸のすわった者共と徐々に入れ替える。
あとはいつものやりたい放題。
何よりも先ず、先立つものの入手というわけだ。
治療のしようがない小物、浅知恵。

 (ピラーノ!山小屋の一件といい、此度は墓荒しか)

 「おのれ等、赦すまじ」

トーンは怒り心頭に発した。

 「冥土の土産に、せめて名乗って進ぜよう。
  利根九郎、推参!!」

 「なーにがトネクロウスイサンですか。
  海鮮問屋ごとき、やっておしまい!」

と言ったかどうかは分からないが、どうせそんなところだろう。
ひとり斬り、ふたり斬り、あっという間にピラーノと手下ひとりを残すだけになった。

トーンは脇差を捨て、両手で本差を構え、ピラーノの正面に打ち込んだ。
袈裟斬り、しかし、あまりにもぬるい。手下にあっさり防がれて、

 「ピラーノさん、逃げて下さい!!」

手柄と思いきや残念。小動物は足がすくんで動けない。手下があいだに割って入っているが、ピラーノ
には左手を伸ばせば届く。
トーンは本差の柄頭にある金属製の輪に左の人差し指をちょいと掛けて引くと、大型の針が出て来た!
手下も両手で構えた剣で受けているから脇の下があまく、ピラーノの右腹部が丸見えだ。

 「邪剣 愚蠍(グカツ)」

トーンはわざと急所を外したので、すぐには死なない。ピラーノは意味不明のわめき声をあげて大針を
抜き捨てたが、気の小ささが災いしてショック状態となり、ぶっ倒れてしまった。

 「まだやるというなら、そうじゃな。
  尋常に勝負してやらぬでもない」

手下の剣を払い構え直したが、村の方から馬と明かりが近づいてきた。
マテクが動けるようになった正規兵を連れて戻ってきたのだ。
腰が引けて、足元が定まらないピラーノ兵にトーンが投げかける。

 「斯様な小物に憂き身をやつす価値があろうか。
  お主も分かっておろう」

相手は適わないことを悟り降参した。

 「終わったのですか」

 「いや、まだじゃ。
  この手の輩は、隠し金を持つのが常。
  坊様、アレを治療し、吐かせてみよう」

トーンは泡を吹いて転がっているピラーノを指した。

 「腐った性根までは直せませんが」

 「……一理ある」



− 11月中旬 シルドーワ港 −

遺言を果たしたトーンは帰国の便を探しに再び港を訪れた、のではない。
マテクはノルデン修道院に戻らず、クレア・バーランも同行している。

バリーが聖王国軍に参加後、音沙汰の無い兄を心配したクレアは、情報収集にとラムナス家を訪問する
と、スレイプニルを返しにやって来たトーン等が偶然居合わせた。

ボル・ラムナスによると、聖王国軍はドルラドア地方のポスタプル砦を攻略後ストンウォール城を目指
して北上しているらしいとのことだった。

ボルはラルターム家に仕える長男のことを心配していた。

 「あれは、桑の実のジャムと蜂蜜が好きで……」

 戦争で命を落とすかもしれない。

 最後となる食事は十分だろうか。

 親として何かしてやりたい。

敢えて口に出さないが、沈痛な面持ちから何を言わんとしているのか手に取るように分かる。

 「某がお届け申す」

マテクもドルラドア地方をまだ巡っていないと言い、クレアはどうしても兄に会いたいと譲らなかった。


港に吹く初冬の風は緩く、べた凪の水面(みなも)に優々と揺られる海鳥。
陽射しは衰えたとは言え、荷役の者達は腕をまくり汗を拭いている。
悪徳が遠のいた町は、まともな商売が再開したようで、戦時とは思えないぐらい賑わっていた。

例によって検品係が木箱の蓋を開けるように怒鳴っていたが、そのうち太い腕に突き飛ばされてしまっ
た。頭でっかちでひょろい手足の小役人とゴリマッチョ系では当然の結果だ。書類が舞い、腕を交互に
回して後進する様はまさにエア背泳ぎ。岸壁の端で踏みとどまったが、面白がって寄ってきた子供に竿
でつつかれて、

 どぼん

聖王国軍が旗揚げした今、ヴァール・ウォードの飼い犬に従う者などいないのだ。


トーンは対岸に渡る船の情報を得ようと酒場に入った。

 「よう旦那、久しぶりだな。剣はどうした?」

テーブルに足を掛けてカードを弄ぶ口髭の男。

 「お主は確かカーヴィ」

 「覚えているたぁ驚きだぜ。
  まぁ、こっちへ来て座れよ」

 「怨んではおらんのか」

 「言ったはずだぜ、俺様は心が広いってな、それに、」

あれから暫くすると聖王国軍が攻めてきた。
海賊は使い捨てにされ、殆どが戦死。
生き残った僅かな連中は改心して義賊に戻った。

聖王国軍は悪徳商人も討伐の対象とした。
護衛なんかしていたらヤバかったが、剣の強奪をしくじり首になったお陰で命拾いした。

 「悪徳の物資は正義の味方に根こそぎ持っていかれちまった。
  旗の色が違うだけで、やることは一緒だとさ、で?」

 「ドルラドア地方に渡る船を知らぬか」

 「やめときな、あっちは今とんでもねぇことになってるぜ」

 「『無理』ではなく『やめておけ』か。
  どこを当たればよいのじゃ?」

 「目的は何だ?」

 「城に届け物があってな。
  聖王国軍で人探しも」

 「聖王国軍…カロス…か。
  けっ、そんなに死にてぇなら」

顔の利く奴がいるから頼んでやる。
カードの負けをチャラにしてやると言えば引き受けるだろう。

 「俺様も行くぜ、カロスにはあん時の借りがあっからな。
  野郎にうまい酒を届けてやりゃ感謝感激ってなモンよ。
  ダメだったにしても、形見ぐらいは見つけて丘の墓地に埋めてやんねーとよ」

 「こちらは馬が3頭いるのでな」

 「酔い止めでも飲ませとけ。大船は期待すんなよ」



− 11月下旬 ドルラドア地方 ポスタプル砦近くの村 −

人の気配が失せた村に、空から白いものが落ちてきた。
凍てつく空気の中、何かを叩く音が寂し気に響いてくる。
馬を降り、霜柱を踏みつけながら音のする方へ行くと、ひとりの男が石を削っていた。

この村の手前でも多くの盛土を見た。
男はこの村の石工で、今朝方息を引き取った兵の墓標を彫っていたのだ。

 「名前を聞けただけ良かった」

治療の甲斐なく死んでゆく兵は村の墓地に埋葬するのだと言う。

 「くそっ、あんな砦なんか、くそっ」

男はポスタプル砦の建設に従事したことを、しきりに悔やんでいた。

海賊被害でインフレが顕在化し出した頃、『公共事業』の話が王都から出た。領主は反対だったのだが、
ウォード侯は集落にビラを撒き領民の支持を煽った。ポスタプル砦の建設にかかわる一切の費用を負担
し、人足は現地で採用するというものだったから、皆これに飛びつき、領主は領民の陳情を聞き入れる
形となった。

6月末に完成すると、今度は物資運搬の仕事が出て、これはストンウォール城攻め直前まで続いた。
懐が温かくなるとウォード侯は良い指導者として評価され、悪い噂はタブー視されるようになった。

 「気がついたら、ご領主様を攻める手伝いをしていたんだ、くそっ」

荒れる石工に、

 「すみません、」

クレアはバリーの特徴を伝え、震える声で尋ねた。

 「斧を持った男の人ですが、心当たりは?」

 「さぁ、俺が知る限りは」

 「そうですか」

 「砦ではまだ多くの者が治療を受けているから、行ってみるといい」

聖王国軍は現在南下中とのことだった。



− 聖王国暦204年 12月2日 夕方 −

西に傾いた陽が心細くなってきた頃、草原の向こうに沢山の明かりが灯り出した。

 「あそこみてぇだぜ。
  カロスの野郎、生きてろよ」

カーヴィは馬を走らせた。

やや遅れてトーン等が聖王国軍の野営地に到着すると、押し合い圧し合いしている数名が目に入るや、
スレイプニルが走り出した。

 「だから俺様は怪しい者じゃねぇって言ってるだろ」

カーヴィが見張り役に捕まっている所に、馬が突っ込んで来るのだから、敵襲と勘違いされても文句は
言えない。が、

 「スレイプニル?スレイプニルじゃないか!」

馬はがっしりした長身の青年に寄り、青年は馬の顔を撫で出した。
マテクはスレプニルの背から降り、

 「ラムナス殿ですね」

 「そうですが…あなたは…?」

 「父君より預かりものがございます」

青年は袋を受け取ると、中から手紙が出てきた。
火をかざし読み終えると、指示を待つ周囲のものを解散させた。

 「そういうことでしたか」

 「なにが、そういうことだ若造!」

 「まぁまぁ、カーヴィさん、急いでお知り合いの所へ行っておあげなさい」

 「おっと、そうだった」

青年は兵をひとり呼び、カーヴィが客だと伝え、陣を案内するよう命じた。

 「なんだ、にいちゃん、結構偉そうだな」

 「言葉を慎め!『ドルラドアの矛』と称せられる我が軍の騎兵長だぞ」

青年は、そんなやり取りなど気にもせずマテクの話を熱心に聴いている。
やがてトーン等が合流したので、

 「私はオーディー・ラムナス。
  トーン殿ですね、弟がお世話になりました」

クレアは馬から降りて挨拶をすると、待ちきれないといった感じでバリーのことを尋ねた。

 「バリーさんなら、ラーナンド陣営です」

バリーの無事を知ってクレアの顔に笑顔が溢れると、もう次には両手で顔を覆い泣き出してしまった。
オーディーは再び兵を呼び、クレアをバリーの所へ連れて行くよう命じた。

 「まさか、スレイプニルに会えるとは。
  私の主にご紹介致します、こちらへ」




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