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   フェアリーズエメラルド 二次創作ショートストーリー Houbou様から戴きました!

     FEAA(フェアリーズ・エメラルド アナザー・アクシス)

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   FEAA 第一話 顕現の振り子


神は新たな周期を始め、自身より生まれた最初の妖精をルエルと名づけた。
神はルエルに、ある空間を与え、ルエルを創世者と定めた。
その空間には天と地があり、地は水により囲まれ、地上は絶え間ざる天空の輝きに照らされていた。
ルエルが創造を終えると、人々はルエルを見、ルエルの声を聞き、ルエルの神殿を築いた。
ルエルはすべてと共にあり、すべては調和していた。
ルエルは世界の果ては越えるべからざる霧で覆われていると教え、人々はそれを守った。

ある時、これまで人々が遭遇したことのない珍事が起こった。
誰かが「これは自分の物だ」と言うと、別の誰かが「いや、それは私の物だ」と主張した。

多くの人々は彼等の言っている意味が分からなかった。というのも、これまで、あらゆるものはルエル
のものであり、必要なときに、必要な分だけ利用することが許されていたので、人々は不足を感じず、
それゆえ何の不満も抱いてこなかった。個人の所有物という概念は未顕現であり、従って自分の内側に
無いものは理解できないのだ。

しかし、そうでない者達がいて、それは恐らく欲望、占有したいという欲がいつか芽生え、それを野放
しにするうちに、彼等はとうとうこの日を迎えてしまった。概念は具象化へ向かう定めに通りに。

双方譲らぬまま、解決されない欲求は口論へと発展し、力ずくの奪い合いになった。
その様子を見ていた誰かが「もっと欲しい」と言うと、また誰かが「あれも欲しい」と手を伸ばした。
この二人は満面の笑みで自身が手にした物を誇ったが、今度は「私のほうが少ない」とけんかを始めた。
こうして、災い袋のくちが開き、悪念はあっという間に蔓延し、ルエルの世界には争いが定着した。

これを観た神は大変に悲しまれた。
負のエネルギーは集まり渦を成し、やがてその中心には嫌悪すべき何かが生まれ、ついには世界の果て
を越えて独り歩きし出すだろう。
神は、ルエルとそのすべての被造物、ルエルとその世界を眠らせてしまった。

まどろみの中でルエルは神のことばを思い出していた。

 ルエルよ、我が内には万象が調和を得て、いちなるものとして我と共に在る。

 然るに我はすべての全てであり、すべては我より生じなければならない。

 我はすべての全てであるが故に永遠に未顕現でなくてはならない。

 汝は我が顕現であり、我は自身を表現する筆先として汝を送り出すのだ。

 汝が司る世界はまだ虚ろであり、多分に抽象的であり、汝の観念によって支えられるであろう。

 だがルエルよ。

 抽象から具象へ向かう運動の秩序は、もとは一つであっても両極へと進み、それらが納まるべき座を
 必然的に生ぜしめる。

 「在る」が顕現するとき創造となり、「無い」が表現を得れば即ち破壊となろう。

 象(かたち)あるものすべてはこの二元性の宿命を免れ得ぬ。

 顕現するものすべてはこの機械的な分化の過程の産物なのだ。

 汝は我と大変よく似ているが、この法則の範疇に在る。

 是の中には非があり、その逆も然り。

 故に創造の後には破壊がおとずれ、歓喜が去った後には幻滅がやって来るであろう。

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 「ルエルよ」

再び神の声がした。

 「ルエルよ、目覚めなさい。
  我は汝の世界を、ある星の一部とした。
  調和を失った汝の世界は、より凝縮した、より具象化した世界へと移行したのだ。
  ルエルよ、汝はここで我に帰還する正当な権利を有するが、選択は汝に委ねられている。」

ルエルは自分が無力であることを直観していた。
先の世界では創世に力を使い切ったとは言え、人々に知恵を授け導くことは出来た。
しかし新しい法則に呑み込まれてしまった人々は、ルエルを知覚する能力を失ってしまったのだ。

その上で、このまま地上に残ったところで、ただの傍観者に過ぎないではないか?
彼等のために出来ることと言えば行く末を見守るぐらいだ。
否、唯一出来ることが無力な存在として共に在ることなのだ。

こうしてルエルはそのように選択したのだったが、再び目を覚ました人々が感じたのは、自然界からの
脅迫だった。生きるために、生きることだけを考え、生き続ける…
いつしか実在としてのルエルは忘れ去られ、良心を残す人々の間に信仰の対象として残った。


聖王国暦以前、いまや伝説となったルエルの神殿を目指す巡礼があった。
その僧はルエルに奉げる貢物としてエメラルドを携えていた。
各地を放浪した僧であったが、自分の寿命があと幾許かを悟ると、ある地に小さな祠を建てエメラルド
を奉納した。
ルエルは敬虔な僧を讃えたが、思念体であるルエルはエメラルドに触ることはできなかった。


更に時は流れ、ある時代、ルエルは大きな力を感じ取った。
力の波動は日増しに強くなり、種から花へ、花からもう実をつけるばかりに成長した。
その波動の中心には、ラルグ・エンドルの姿があった。
ルエルはラルグの夢を訪れ、エメラルドの所在を明かし、という宣託を与えた。

 「いち早く戦乱を収束するように」




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